多くの医療機関では限られた人数で業務分担を行っており、急な退職者が出た場合には、業務引き継ぎで混乱する事例が多く見受けられます。
その最たる要因である退職時に残っている有給休暇をまとめて取得したいという申し出が出された場合、業務引き継ぎが出来ない儘の退職となってしまいます。
このような申し出があった場合、原則的には与えなければなりませんが、就業規則に引き継ぎ義務を明記して置くことで、業務引き継ぎを円滑に行い、結果的に使わなかった有休分を給料や退職金で支払うことが出来ます。
今回はこの点について、解説させていただきます。

■ 退職時には使用者の時季変更権が使用できない
 労働者が請求してきた有休に関して使用者には「時季変更権」(取得時期を変更する権利)があります。しかし、この時季変更権はスタッフの退職後に行使することはできません。そのため、退職前に請求してこられた有休に対しては時季変更権が使えず、原則は与えなければならないということになります。

■ 有休を「買い上げてほしい」と言われたら
 有休の買い上げの予約は禁止されています。有休は元々「心身の疲労を回復するため」のものであり、買い上げにより必要な日数の有休が与えられないというのは法律違反となるのです(昭和30年11月30日、基収4718号)。
 有休の日数については下記の表を参照ください。

【正職員の付与日数】
勤続期間6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

【パートタイマーの付与日数】
週所定労働日数勤続年数/付与日数
6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月
5日10日11日12日14日16日18日20日
4日7日8日9日10日12日13日15日
3日5日6日8日9日10日11日
2日3日4日5日6日7日
1日1日2日3日

 ただし、例えば1か月後に退職するスタッフが、残り1か月間すべて有休を使いたいと言ってきた場合、クリニックは急な人材不足に陥り、また新しい人に教育ができないという問題が生じてしまいます。そのため、あくまでも話し合いにより双方の権利と義務を調整していくこととなります。

■ 就業規則に引き継ぎ義務を明文化する
 スタッフと話し合いをするに当たり、就業規則に「引き継ぎの義務」を明文化しておくことがポイントです。つまり、退職日の1か月前に退職の申し出があった場合、1か月間で自分の仕事をきちんと他のスタッフに引き継いでから、有休を取り退職してくださいということです。それを就業規則に記載することで、話し合いの時に「有休はもちろん権利としてありますが、就業規則にある引き継ぎも義務として果たしてください」と交渉ができます。
 仮に、新しい人に引き継ぐのに時間がかかり、1か月間に希望している日数の有休を消化できなかった場合、その余った有休を買い取ることまでは法律で規制されていません。

■ 余った有休を結果的に買い取るのは違法にならない
 先述のとおり、有休を買い上げることを約束するのは禁止されていますが、退職時には、有休は使わなければ単になくなってしまうだけです。そのため、「そこまで頑張ってくれたのであれば、使わずに消えてしまった有休分を退職金や手当で支給してあげる」ということは可能です。もちろん、その支給金額については有休を取得した場合と同じく「通常の賃金」などで支給しても構いませんし、通常の賃金の8割・5割などに設定することも可能です。ただし、退職時の有休の買い上げが慣行となってしまい、スタッフが買い取ってもらうことを期待して有休を使わなくなってしまうことにならないよう注意が必要です。いくら金銭を支給しても、有休の取得が抑制されている風土があれば、労基法39条に違反していると指摘を受ける可能性があります。
 あくまでも、結果的に残った有休に対しての対応であり、スタッフが有休を取る権利を阻害するものにはならないようにしておくことがポイントです。

株式会社日本医業総研

石川恵
投稿日 2023.02.10

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