かかりつけ医制度導入に進むのではとの情報の発端となったのは、令和4年5月17日に開催された全世代型社会保障会議の中間報告からです。
中間報告では、
「今回のコロナ禍により、かかりつけ医制度などの地域医療の機能が充分作動せず総合病院に大きな負荷がかかるなどの課題に直面した。かかりつけ医機能が発揮される制度整備を含め、機能分化と連携を一段重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めるべきである。」とした記載があり、にわかにかかりつけ医制度の法制化か進むのではとの情報が流れました。

全世帯型社会保障構築会議の中間報告を受けて、令和4年6月7日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2022」いわゆる骨太の方針2022では、かかりつけ医制度に関しては、
「医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については、今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化や連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と方向付けた。

かかりつけ医については、そもそも明確な定義がなされていません。
厚生労働省のホームページでは
「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時に専門医、専門医療機関を紹介してくれる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を担う総合的な能力を有する医師」と説明されています。
又、医療法施行規則(省令)では、
「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」と規定されています。

では、患者さんはかかりつけ医をどのように考えているのでしょうか。
日本医師会総合政策研究機構による日本の医療に関する意識調査・令和4年5月報告によれば、かかりつけ医に期待する役割や機能という質問に対して
回答数の高かった順に見ていくと
1)どんな病気でもまずは診察出来る66.6%
2)専門医又は専門医療機関への紹介64.5%
3)健康管理のための助言や指導の積極的な実施57.9%
4)患者により添う親身な対応55.2%
5)健診・検診・予防接種・ワクチン接種など48.9%
6)これまでの病歴や処方の把握43.3%

患者さんが求めるかかりつけ医と大きな違いは無いようにみられますが、まだ隔たりはあるように感じられます。
又、日本では診療内容ごとに特化した診療所が多く、1人で幅広い知識を屈指して診療にあたる「総合診療医」が少ないことが「かかりつけ医」の制度設計が遅れて来た大きな要因となっており、このことの解決も早急に進めなければならない課題として挙げられています。
諸外国でかかりつけ医と言うとイギリスのゲートキーパー制が思い浮かびます。
ゲートキーパー制とは、特定地域における住民に対して初期診療を行い、専門医の受診や入院などが必要かどうかを判断する制度となっています。
特定地域の住民が事前にゲートキーバー医師の患者として登録を行い、救急時を除き、まずゲートキーバー医師の診療を受けることにより、専門医や病院に患者が集中することを防ぐ機能を有しています。
実際には患者さんにとっては予約が取り難く、受診迄の時間が長く待たされてしまうことや、自分で内科や皮膚科等の診療科目を選択できない等のデメリットを有しています。
このようなデメリットに対する対策も含めて、しっかりした議論を深めて頂きたいと思います。
日本医師会は「かかりつけ医」はあくまで国民が選ぶの基本(松本会長)として、国民への登録義務づけに反対している。
「かかりつけ医」は当初は「家庭医制度」として日本医師会武見会長時代に検討が進められました。
当初検討された家庭医は、
・医師の資格として  ・患者が一人の医師を決めて登録する ・診療報酬は人頭払いを原則(登録患者の人数に応じて診療報酬を受け取る方式)
その後家庭医構想は、かかりつけ医を一般的な名称として、患者さんとの関係はフリーアクセスとする構想へと変遷して来ました。
その経緯について水野肇氏著「誰も書かなかった日本医師会」に書かれています。
尚、この著には租税特別措置法第26条、いわゆる医業の概算経費による所得計算の誕生秘話も書かれてあり、とても興味深い一冊です。
 厚生労働省が通常国会に提出する法改正案は次のようなものとなっており、
かかりつけ医の役割定義の法制化止まりとなっています。

各項目かかりつけ医の制度案(厚労省)
役割の法制化省令を法律化に格上げを検討
かかりつけ医関係継続的な健康管理が必要な患者との間で書面で確認
情報発信強化日常的な疾患への対応や、休日・夜間の体制などの項目についてウェブサイトに記載
かかりつけ医機能報告制度創設医療機関が機能を都道府県に報告
医療機能情報提供制度情報の拡充を図り、患者さんのニーズに応じた医療機関選択を後押しする

かかりつけ医制度の法制化は診療所にとって大きな影響が生じる可能性を含んでいますので、今後の動向に注視して頂きたいと思います。

公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 顧問
株式会社MMS 代表取締役 佐久間 賢一  

株式会社 MMS
代表取締役
佐久間 賢一
投稿日 2023.03.13

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