毎年6月に閣議決定される「経済財政運営と改革の基本方針」通称骨太の方針において2019年10月に消費税率10%への引き上げが閣議決定されました。
消費税は間接税なので納税義務者と納税負担者が異なり、納税義務者は事業者、納税負担者は消費者となります。一般事業においては消費税率の引き上げは、商品価格等に上乗せすることによる景気への影響が一番懸念されます。
しかし、医療機関においては消費税率引き上げがそのまま医療機関経営に大きな影響を及ぼすことになります。その理由は消費税第6条の保険診療に対する非課税規定があるからです。
「健康保険法、国民健康保険法等の規定に基づく療養の給付及び入院時食事療養費等と列挙されており広く社会保険診療について非課税と定められている。」
医療機関が購入する医療機器や薬剤等にも消費税は付加されており、一般事業であれば消費者に対して販売する際に消費税を付加出来ます。その際に仕入れ時に支払った消費税額を売上に付加した消費税から差し引いて納税する仕組みになっています。
これを前段階控除方式と言いますが、医療機関の場合には保険診療に対して消費税を付加する事が出来ない為に、医療機関が仕入れ等で支払った消費税額はそのまま医療機関が負担することになってしまいます。これが控除対象外消費税、いわゆる「損税」が発生する構造です。
 この控除対象外消費税への対策として考えられているのが次の三つの方法です。

控除対象外消費税対策対策内容
診療報酬補填方式診療報酬改定時に、控除対象外消費税対策分の診療点数を引き上げる
課税方式診療報酬を非課税から課税に変更することで、前段階控除方式が適用出来る
還付方式控除対象外消費税対策として直接医療機関に還付する

(1) 診療報酬補填方式
 診療報酬改定の際に医療機関が負担している控除対象外消費税の補填として診療報酬を引き上げるもので、平成元年の消費税導入時から一貫して行ってきた方式です。平成元年には消費税補填分として0.76%、平成9年には0.77%,の引き上げが行われましたが、診療報酬項目4000の中で加算したのは平成元年で36項目、平成9年で24項目と特定の診療行為に限定され偏りがみられました。又、以降の診療報酬改定において引き上げた診療点数が減点や包括点数化されて診療報酬補填が十分でないとの批判がありました。平成26年には基本診療料の引き上げで対応され、初診料が12点補填され292点、再診料が3点補填の72点に引き上げら、診療行為による偏りを無くす方式での補填となりました。しかし、診療報酬補填方式は財源的に難しい時期にきており、他の方法での検討が必要と言われています。
(2) 課税方式
 控除対象外消費税が発生するのは、消費税第6条の非課税規定に起因する為に消費税6条を見直して診療報酬にも消費税を課税すべきとの指摘がなされています。但し診療報酬への課税は患者負担の増加となり、診療抑制による症状の重篤化等を招く結果となる事が予測されます。その為に診療報酬に課税する消費税税率を0%とすることで患者さんへの実質的負担を無くす方法が検討されています。この0%税率方式を採用すると、医療機関が仕入れ等で支払った消費税は前段階控除方式により全額医療機関に戻ることになります。患者負担を生じさせることなく控除対象外消費税を解決する方法と言われています。
 しかし消費税法の改定が必要となり、政府としては大きな決断が不可欠であり以前より議論がなされてはいますが結論には至っていません。
(3) 還付方式
 諸外国で控除対象外消費税に対応しているのはカナダだけです。カナダではPSBリベート方式と言って、医療機関が控除対象外消費税額を政府に申請し、業種によって還付率が異なりますが医療機関に関しては、申請額の83%を還付する方式を採用しています。日本では医療機関の経理処理が消費税を仕入れ等の額に含めている為に、控除対象外消費税額を明確に把握していない場合が多く工夫が必要となりますが、一時はこの方式が優れているとの意見が多く出た事がありました。
控除対象外消費税対策としては、この三つの方式のいずれかを採用することになると予想され、これから議論が深まっていくものと思われます。

株式会社 MMS
代表取締役
佐久間 賢一
投稿日 2023.02.10

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