「選ばれる診療所」になるために 開業を成功に導く方法を伝授する
競争の激化、設備費用の高騰、スタッフ不足など、開業を取り巻く環境は必ずしも順風満帆とは言い難い。そんな中、どうすれば「選ばれる診療所」を実現できるのか?診療所の開業・経営支援で豊富な経験と実績を持つコンサルタント、株式会社MMS代表取締役の佐久間賢一氏が開業を成功に導く方法を伝授する。
医師偏在対策には注意したい設備費用など開業資金が高騰
―診療所・クリニック開業を目指す際に確認すべき情報はありますか?
厚生労働省が進める医師偏在対策について確認しましょう。2026年4月より、都市部など外来医師過多区域での新規開業に対する規制が強化されました。当該地域で無床診療所を開設する場合、開業6か月前の事前届出が義務化され、その地域で不足する医療機能(在宅医療、初期救急、公衆衛生)の提供を要請されます。要請に応じない場合、協議の場に呼び出され、それでも応じない場合はペナルティが課せられます。
ペナルティは保険医療機関の指定期間を6年から3年へと短縮。また、令和8年度診療報酬改定から機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料が算定できなくなりました。さらに補助金申請の一部を認めず、医療機関名の公表も行われます。
―かなり踏み込んだ対策ですね。注意すべきことは?
外来医師過多区域で開業するすべての診療所が対象になります。一部の業者が「自由に開業ができなくなる」と煽っていますが、6か月前に届出を出し、要請に従うなら問題はありません。ですから冷静に対応していただければと思います。
今後も医師偏在対策は強化されると思われるため、厚生労働省のホームページなどで動向を確認しておきましょう。
―開業を取り巻く環境の中で変化した点は?
内装工事を含めた設備費用が高騰しています。5年前と比較して2倍近くになっている感覚です。以前はビル診療所の場合、開業資金全体で5,000万円くらいが相場でしたが、現在では1億円に近づいています。そのため、より堅実な資金計画の立案が求められます。
―開業を目指す医師像に変化はありますか?
40代のドクターが多いことは変わりません。定年を控えた50代と専門性を打ち出した30代の若いドクターの開業も増えています。開業の方向性としては大きく3つあります。一つは前述の外来医師過多区域で開業する道。医院間の競争は激化していますが、お子様の学校の関係などから都市部での開業意欲は旺盛です。次にご自身の出身地や配偶者の実家など、地縁のある地方での開業。地域によっては補助金なども期待できますが、都市部と比較して人口も少ないため、成功するためには人脈を上手に活かす必要があります。
3つ目が承継による開業。設備投資額が抑えられ、開業時から一定の患者数が期待できるため、検討されるドクターが増えてきました。
診療所の「設計図」となる経営理念競合と自院の力関係も確認しよう
―開業準備の基本的な流れを教えてください。
開業の1年半前から準備を始めましょう。最初にやるべきことは経営理念の策定です。開業の目的や自分が提供したい医療を誰もが理解しやすい言葉で表現します。この経営理念が診療所と開業手順の「設計図」になります。
提供したい医療が明確になれば、ターゲットになる患者像が決まり、どのような場所でどんな診療所を実現するかなど、効果的にマーケティングを進めることができます。
また、ご自身のキャリアの棚卸しを行い、強みと弱みを把握し、強みを打ち出すことで他院との差別化をはかりましょう。たとえば糖尿病や睡眠障害といった専門性を積極的にアピールして差別化をはかるとともに、広く内科全般を診るスタンス―専門の深さと間口の広さを併せ持った「T字戦略」をおすすめします。その後エリア絞り込み、開業物件探索、診療圏分析を行い、開業6か月前までには開業物件を確定しましょう。
―開業物件探索を行う際、注意すべき点は?
物件ありきの開業を行わないことです。経営理念を策定せず、開業目的や提供したい医療が曖昧だと、その物件が適切かどうか正しく判断することができません。一度開業すれば数十年その場所で診療を続けることになりますので、しっかりとした評価基準を持って選択したいですね。
―診療圏調査の上手な活用法は?
診療圏調査はそのエリアで1日何人の患者さんが見込めるかを調べるもので、対象となる患者人口を診療所の数で割ったものです。競合する診療所が1つあった場合、競合と自院で患者さんを5対5で分け合えるかどうか。競合の人気と実力次第では競合8対自院2ということもあります。そのため数字を鵜呑みにするのではなく、厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)などで一日来院患者数を調べ、力関係を検討しましょう。
黒字化に必要な患者数を把握開業時に多く借りて繰上げ返済
―事業計画・資金計画はどのように立てるべきですか?
資金計画は初期段階から大まかなものを立案し、開業物件探索、物件確定などのステージに合わせて具体的な数字を入れ、ブラッシュアップしていきます。診療収入は診療単価×患者数×診療日数で決まります。そこで1日何人の患者さんが来れば、収入が家賃や人件費などを含めた経費を上回るかを検討しましょう。その数字を元にスタッフの数や設備などを決めていきます。
―上手な借り入れについて教えてください。
先ほど話した通り、内装工事などの設備費用が高騰し、設備資金と運転資金を合わせると1億円近くになるケースが増えています。開業時にできるだけ多く借り、余裕ができた時点で繰上げ返済するのが賢明です。その際、元金返済を猶予する据え置き期間を必ず設定しましょう。診療所への融資に積極的な地方銀行がいくつかありますので、比較検討を行います。運転資金は融資と自己資金を合わせて、最低1年間は持ちこたえられる額を用意したいですね。また、ご自身の生活費も確保できるようにしましょう。
成功の鍵を握るスタッフの接遇複数の媒体とSNSで上手に募集
―スタッフの接遇が開業成功の鍵を握ると聞きますが、なぜですか?
院長が患者さんと相対するのはほんの数分です。看護師や受付スタッフと接している時間の方が圧倒的に長い。たとえ院長の診療がどれだけ優れていたとしても、スタッフの接遇が悪いと、診療所全体の印象が悪化します。いい口コミは広がりませんし、患者さんの定着にもつながりません。
スタッフの接遇研修を行う際に重要なのは、院長自らが率先して参加すること。スタッフは院長の姿勢を常に見ています。研修も人まかせにするのではなく、常に当事者意識を持って臨むことが重要です。
―看護師、受付など診療所スタッフの上手な募集方法は?
近年、スタッフの採用はますます困難になってきました。一つの募集媒体だけで採用活動を進めることは難しい。ハローワーク、インターネット求人募集サイト、新聞折り込みチラシ、地域情報誌、自院のホームページなど複数の媒体を上手に組み合わせて募集を行いましょう。これら5つの媒体に加え、InstagramなどSNSを活用することで、有利に採用活動を進めることができます。
ホームページで自院をアピール各SNSの特徴を活かして集患
―効果的な集患方法を教えてください。
近年では医療機関を選ぶ際、多くの人がネット検索や医療機関ホームページで比較・検討を行っています。
2024年より医療情報ネット(ナビイ)で全国の医療機関を検索できるようになりました。ナビイにはその診療所のホームページアドレスが掲載されるため、自院のホームページは開業6か月前にはアップして、治療方針や特徴などをしっかりアピールしましょう。また、ホームページ制作を外部に依頼する際、その業者が医療広告ガイドラインをしっかり理解しているかどうか必ず確認しましょう。
―やはりホームページやSNSの活用がポイントになりますか?
SNSはサービスによって利用層が異なりますので、ターゲットに合わせて使い分けることが大切です。開業前にSNSで情報発信を行い、ホームページに誘導する手段として活用するのが有効です。
また、インターネットだけでなく、開業約1か月前のチラシ配布、約1週間前の内覧会開催も効果的です。内覧会では血圧測定や健康相談を行うことで、地域の方々に親近感を持っていただけます。
院長がいかに患者に向き合うかが信頼感と満足度を大きく左右する
―開業を成功に導くために最も重要なことは?
ズバリ患者さんの満足度です。経歴や看板だけでは患者さんは集まりません。いかに患者さんと向き合い、しっかりと話を聞いて、正しい判断を下せるか?そこに信頼感が生まれれば、自然と患者さんが集まるようになります。ある非常に成功されているドクターは「必ずよくなりますよ」という「ペップトーク」(勇気づける言葉をかけること)によって、常に安心感を与えています。
診療所は患者さんを「待つ時代」から、患者さんから「選ばれる時代」に変わりつつあります。広告戦略やスタッフの接遇はもちろん重要ですが、最大の鍵となるのは院長の患者さんへの向き合い方だと言えるでしょう。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 顧問
株式会社 MMS 代表取締役
佐久間 賢一