年が明けると年末調整、償却資産税申告、給与支払報告書提出と様々な税金に関する報告等が目白押しです。
その中でも特に重要なのが3月15日迄に提出する確定申告書です。
確定申告は個人の所得税、住民税の計算根拠となる資料として提出されるものですが、単に税金の申告資料としてだけではなく1年間の経営状況の見直しと今後の経営状態の検討資料としても有効に活用していく必要があります。
所得税青色申告決算書は1年間の診療所の全収入から事業上必要となる経費を控除して、1年間の利益としての所得金額を算出しています。
3月15日の申告直前に慌ただしく見るのではなく、中身の数値をしっかりと見直し検討して頂きたいと思います。
その簡単な検討方法として2つを挙げさせて頂きます。
時系列比較方法 | 過去数年間の数値と比較検証する |
ベンチマーク方法 | 同診療科・同規模の経営数値と比較検証する |
時系列比較とは、過去3年~5年間の青色申告決算書の数値を比較検討する事で、経営状態がどのように推移して来たのかが確認出来ます。
・診療収入(青色申告決算書の①の金額)が伸びているのか、減少傾向にあるのか。
・売上原価(同決算書の⑥の金額)はどう推移しているのか。
・診療所の全経費(同決算書㉜の金額)は、増加傾向にあるのか、減少傾向なのか。
・経費が増加傾向にある場合には、⑧~㉗の経費の内、何処に要因があるのか
このように各項目毎に細かに見直す事で、今の経営状態の見直し資料として活用する事が出来ます。
単年度数値を見ただけでは分からない点が、時系列比較する事で浮き彫りになって来ます。
税務調査の場合には、事前に机上調査としてこのような時系列分析を行い問題点を抽出した上で調査に臨むと言われています。
次にベンチマーク方法とは、同診療科、同規模の経営数値と比較検証し自院の問題点や課題を把握する方法です。
医療機関の場合には診療科目による経営特性が大きく、異なる診療科目と比較しても参考にはなりません。
一般に公開されている医療機関の経営数値としては、厚生労働省が2年に一度実施する医療経済実態調査が有ります。
令和元年11月に報告された第22回医療経済実態調査では、平成30年3月末終了の事業年度と平成31年3月末終了の事業年度の2期比較が報告されています。
診療科目としては内科・小児科・精神科・外科・整形外科・産婦人科眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科・その他・全体に分けて表示されています。
例えば内科の場合には((9)一般診療所・主たる診療科別の損益状況より)診療収入が前期で78.013千円、前々期が77.090千円と約1.2%と微増傾向を表しています。
貴院の青色申告決算書の①の数値と比較してみて下さい。
但し、単に診療収入の多寡だけでは経営は判断出来ません。最終的な利益となる損益差額(所得金額)が重要です。
医療経済実態調査の内科では、損益差額が前期が24.607千円、前々期が23,718千円と診療収入の伸び1.2%とほぼ同じ伸び率となっています。
所得金額の絶対数値を見るだけではなく、もう一つ注視して頂きたいのは診療収入に対する比率も重要な数値です。
医療経済実態調査の内科では前期が31.5%、前々期が30.7%となっています。
貴院の場合には青色申告決算書㉝の差引金額を①の売上金額で割った数値となります。
この数値が比較検証した結果低い場合には、経費金額が大きい場合が考えられます。
特に診療所では一番高い経費となっている人件費が高い事が予測されます。
医療経済実態調査では給与費(人件費率)が前期で26.6%、前々期で26.5%となっています。
貴院の場合には青色申告決算書⑳の給与賃金と㊳の専従者給与を合算した人件費合計を①の売上げで割った数値が人件費率となりますので、比較検証して頂きたいと思います。
他の検証方法も種々有りますので、確定申告書を経営数値の見直し資料として有効に活用して頂きたいと思います。
(注記)
眼科診療所のデーターには、日帰り手術実施医療機関データーが反映されていないと推察されます。
参照:厚生労働省「第22回医療経済実態調査(医療機関等)報告
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/22_houkoku_iryoukikan.pdf公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会
専務理事 佐久間 賢一
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 顧問
株式会社 MMS 代表取締役
佐久間 賢一