厚生労働省では、14年11月に施行される「過労死等防止対策推進法」に伴い「長時間労働削減推進本部」を設置します。長時間労働削減の徹底を図り、重点指導監督を実施する為です。長時間労働の削減は、以前から重点テーマとして行政が取り組んできたものですが、11月以降はこれが一層強化されることになります。
①長時間労働の削減に向けた重点監督の実施
(1)相当の時間外労働が認められる事業場など
(2)過労死等に係る労災請求がなされた事業場
重点監督を実施⇒ 法違反を是正しない事業場は送検も視野に入れて対応
②相談体制の強化
「労働条件相談ホットライン」により、無料電話相談を実施
電話相談で受けた情報を重点監督に活用
③労使団体への要請
④過労死等の防止に向けた取組
過重労働が原因となる労災事故は、医療業にとっては縁遠いものと思われるかもしれません。しかし、昨年の労災保険支給決定件数において、医療業は、精神障害で第3位、脳・心臓疾患で第13位となっており、実は決して少なくないのです。恒常的に人手不足の業界であるため、要員確保と労働時間管理には努力と工夫を重ねられていることと思いますが、今回は、日々の配慮が必要な労働時間管理の注意点についてお話しいたします。
このところ、過労による死亡、心の病が多発しているのはご存じの通りですが、特に近年、例えば、時間外労働が100時間を超える労働者が死亡した場合に労働災害と判断される可能性は非常に高まってまいりました。従業員にいったん労災の認定が下されれば、医療機関は安全配慮義務に違反した責任を負い、莫大な損害賠償を覚悟しなければなりません。労働時間の管理は大きな課題と言えます。
労働時間を管理するのは医療機関であり、従業員はその指示に従って労働する、という事が労働契約の原則です。 「会社は業務の都合により、所定労働時間を超えて労働させることがある」、これはどの医療機関の就業規則にも明記されている時間外労働についての条文ですが、記載のとおり、時間外労働は医療機関が命令して行わせるものであって、従業員が勝手に行うものではないのです。
この医療機関による残業命令ですが、上司(院長)が「残業をしてくれ」と明示するものと、明確に命令をしていなくとも状況的に指示をした、と解されるものとがあります。前者は指示がハッキリしていますが、後者が適切なものであるかどうかの判断は難しいものとなります。医療機関側としては、業務が終わってもダラダラしている場合や個人的なこだわりから今やる必要が無いことをしている場合等「従業員が勝手に居残っているのだ」と主張したい場合もあるでしょう。しかし、労働時間を巡って争いになったときには、後者も大抵の場合、「黙示的命令」として残業の指示命令があったとされます。あやふやな状況での残業は、絶対に排除すべきです。では、その為にはどのような対応が望ましいでしょうか?
まずは、就業規則条文上で「やむを得ず時間外労働の必要性が生じた場合、従業員は事前に上司に申し出て許可を得なければならない。許可なく所定労働時間外に会社の業務を実施しても、会社は原則として労働時間とは扱わない。」ことが原則である旨を明記しておくべきでしょう。具体的には「上司の命令」や「残業申告書の許可」が必要として、申告・承認制を確立しておき、この制度によらない残業は認めない、と明文化しておくのです。もちろん、患者数の多い日で定時に終業できないことが明らかな場合は、管理者が現認しているので申告は不要と思われますが、しかし、この規定を管理者が日常的に遵守し、従業員に徹底させることが大事です。また、図のようにタイムカード等をタイムリーに打刻できない場合、タイムカードは出退勤管理の道具であって労働時間を把握するものではない旨を理解し、従業員に労働時間の範囲を周知することも必要です。
現在、労働政策審議会では、10人未満の医療業の法定労働時間を週44時間とする特例を廃止、他業種同様週40時間労働とすることについての検討が始まっています。結論がどうなるかは分かりませんが、そのような状況変化も現実的に想定されます。労働時間の把握は医療機関の義務であることを自覚するとともに、医療機関にとって無駄な労働時間が発生していないかどうか、再検討をしてみましょう。