年が明けますと、徐々に春闘のニュースを目にすることが多くなります。この時期に、毎年院長から質問を受けるテーマが、昇給についてです。
クリニックの昇給の実態は様々ですが、効果的に昇給を行うためには、以下2点を押さえていただくと良いでしょう。
1.長期間(10年以上)同等額で昇給し続けられるか
2.昇給がスタッフの勤務意欲につながっているか
■「長期間同等額で昇給し続けられるか」
クリニックによっては、1万円以上の昇給を行っているところもあります。ただ、1万円の昇給を1人に10年間行うと月給が10万円UPしてしまいます。月給18万のスタッフが28万になってしまうわけですから、これは現実的ではありません。余談ですが、東証一部上場の大手企業でも、平均昇給額は8,235円です。※1
また10年間の間で昇給する年としない年があると、昇給できなかった年には「私は評価されていない」「先生が認めてくれていない」と感じるスタッフがでてきます。これでは、せっかく経営努力を重ねて1万円昇給したにも関わらず、モチベーションが下がってしまうことになってしまいます。そのため、できるだけ毎年昇給できる金額設定をすることがポイントです。
私が関わっているクリニックの平均的な昇給額は2,000円~4,000円です。例えば、毎年3,000円の昇給であれば、10年経っても月給3万円のUPとなるため、仮に月給18万円の事務の方であれば、月給21万円になるようなイメージです。経験10年の中核の方としては妥当な給与設定になります。参考までに、表1は病院の職種別の平均昇給額です。看護師の全国平均の昇給額は病院でも4,200円です。この金額からみても、クリニックで2,000円~4,000円の昇給であれば、妥当な額といえますので、一つの目安としていただくと良いと思います。
※1経団連発表「2015年春闘の大手企業業種別妥結結果の最終集計」より
表1 病院の平均昇給額
職種 | 昇給額※ |
看護師 | 4,272円 |
准看護師 | 2,825円 |
医療技術員(有資格) | 4,819円 |
事務員 | 4,284円 |
看護補助員 | 3,390円 |
引用:病院給与勤務条件実態調査(2015年)
※私的病院計(精神病院含む)の本給定昇部分を表示(ベア・手当等の賃上げ分を除く)
■「昇給がスタッフの勤務意欲につながっているか」 毎年昇給額を考えるのが面倒で、「取り敢えず全員一律で3,000円上げている」という院長もいらっしゃいます。ただし、頑張っている人も、そうでない人も一律の昇給では、頑張っても頑張らなくても同じ給料がもらえるため、一生懸命働く方が損をする組織風土になってしまいます。
評価に応じた昇給額を設定し(表2参照)、働きぶりに応じた昇給を行い、それをフィードバックでご本人にしっかりと伝えることで、頑張りを認めていく風土を創っていくことが大切です。
表2 昇給表の例
| 昇給額(常勤) |
評価 | 看護師 | 事務 |
S | 4,000 | 3,500 |
A | 3,500 | 3,000 |
B | 3,000 | 2,500 |
C | 1,500 | 1,000 |
D | 0 | 0 |
■評価の内容はできるだけスタッフにも公開を 評価の内容は、できるだけスタッフにも公開していただくのが望ましいでしょう。そうでなければ、院長の思いとは反対方向に頑張ることや、本人は「頑張っている」と思っていてもそのレベルに大きな差が出てしまうことがあります。先生が求める行動を可視化し、「この方向に頑張ってほしい」というメッセージを伝え、組織全体がその方向を向いていくようなアプローチをすることが重要です。
評価項目の例
【挨拶・返事】笑顔で明るく、相手に目線を向けて挨拶をしているか。また、名前を呼ばれた時に必ず「ハイ」と返事をしているか
【報・連・相】独断で判断せずに、必要事項の報告・連絡・相談を実施しているか。業務終了後には、必ずその日の報告を行っているか
【仕事の正確性】業務内容を一つひとつ確認・理解し、書類作成やデータ入力、電話対応、金銭管理などを正確に遂行しているか
【向上心】患者サービスの向上・業務改善に取り組むとともに、院内研修に積極的に参加し、専門知識・技術を高めているか