表題を見て「診療報酬改定はついこの前あったばかりでなかったかな?」と感じる読者も多いと思います。平成30年度(2018年度)の改定では消費増税に合わせて令和2年10月に基本診療料を中心に引き上げられたばかりです。それだけでなく、平成30年8月には高額療養費の限度額変更とレセプト特記事項欄のルール変更、10月には定型コメントの電算コード化、平成31年4月にはリハビリテーションの計画措置終了など、息をつく暇もないくらい細々としたルール変更が続いた異色の改定でした。
本稿では令和2年10月末の情報に基づいて、クリニックに関連するところを中心に議論の方向性を論じたいと思います。
キーワードは「連携」と「かかりつけ医」、さらに「医師の働き方改革」です。これは2025年問題だけでなく2040年問題を見据え、地域包括ケアシステムの構築をより進めるためのものです。日本医師会など医療・介護関係団体が地域包括ケア学会を立ち上げるなど、現場レベルへの浸透も進んでいますので、今まで以上に近隣の病院・介護事業者・調剤薬局・歯科医療機関との連携を模索して頂きたいと思います。
個別の診療報酬の具体的な議論はまだ出ていませんが、小児抗菌薬適正使用支援加算や機能強化加算、地域包括診療加算に手が入りそうです。また話題となったオンライン診療料は、算定要件がどこまで緩和されるかが肝になりそうです。
近年の改定では、生活習慣病管理や認知症、癌といった疾患別の報酬設定でした。例えば昨年の改定では働きながら癌治療を受けやすくするために「療養・就労両立支援指導料」が新設されましたが、来年の改定に向けては世代別での議論が進行中です。
患者さんの疾患とライフステージに応じ、診療科を問わず地域包括ケアシステムの一員となるということでしょうか。
癌関連では在宅医療では地域連携(医介薬歯の連携)により一層の推進のために、緩和ケアにかかる連携が議論されています。
細かい話ですが、昨年の定型コメントの電算コード化の流れでレセプトのナショナル・データ・ベース(NDB)対応も促進されるため、電子カルテやオーダリングの操作にも影響がありそうです。
同時に支払基金では「支払基金業務効率化・高度化計画」を基に、令和2年度に審査システムが更新されコンピュータチェックの精緻化が進められます。
レセプトの査定対策という面でも、レセプトの電算システムの構造を理解して、チェックソフトを活用するといった取り組みが大事になるでしょう。
医師の働き方改革に関連して、応召義務に関する通知が出ています。こちらは病院の勤務医が中心の話ですが、医師法の規定でもありますので、確認しておきたい通知です。
医師の働き方改革はどうしても病院が中心の話になりますが、クリニックも看護師や事務員の管理が必要ですので、サブロク協定の確認など社会保険労務士に相談しておく必要もあります。
診療報酬改定とは直接関係ありませんが、頭の片隅に置いて欲しい様々な情報がありますので以下に記しますので、ネットなどで確認しておくと良いでしょう。
1つ目として、改正民法が令和2年4月1日から施行されます。時効の規定などが見直され、レセプトの請求権の消滅時効が3年から5年に延びることになりました。同様に損害賠償請求に関わる時効が延びる事と医薬品医療機器等法の規定(血液製剤やワクチン、破傷風トキソイドなどの生物由来製剤等は注射ラベルを20年保管しておく事が定められています)を踏まえて、カルテをはじめとした諸記録の保管状況について見直す機会になりそうです。
2つめとして、令和3年3月から、保険証の資格確認をオンラインで行える仕組みが導入されます。医療機関に導入するための手順等の詳細はこれから案内が出ると思いますが、レセプト電算処理が導入された時のように、医療機関側での準備も必要です。
同時にマイナンバーカードに保険証の機能を持たせる事が可能な仕組みも導入されますので、受付窓口の動線なども検討しておく必要があります。
資格確認の端末導入は、もちろん強制ではありません。現時点でのマイナンバーカードの普及率は14%程度ですが、今までの保険証の患者さんとマイナンバーカードの保険証の患者さんが混在する事になりますので、窓口で混乱しないようにしておきたいものです。
最後に、近年は地震だけでなく、様々な災害が全国で起きています。被災してしまった場合は一刻も早い復旧が大事ですが、診察せざるを得ない患者さんも出てくると思います。災害時の取り扱いは、東日本大震災以降同様な取り扱いで、保険証が無くても受診可能であったり、一部負担金の免除や減免などの措置が取られることが多いです。
新聞報道などでは、自己負担割合引き上げなど改定前には色々な打ち上げ花火が上がりますが、年明け以降は怪しげな情報に惑わされず正しい情報を収集して頂きたいと思います。