多くの院長が悩まれているのがスタッフ指導ではないでしょうか。
単に経営者と従業員という立場の違いだけでなく、医療に対する高い使命感を持つ院長と、職業と考えているスタッフとの違いも大きく関わってきます。
つい指導で厳しい言葉を掛けてしまい、その後の関係が悪化してしまったという事例を多く見掛けます。
特に女性スタッフに対しては3回褒めてから1回叱れと言われていますが、問題点を気付いた時に指導してしまう事が多いと思います。
診療所では院長と接している時間より、看護師、受付スタッフが関わる時間の方が長く、院長との関係が悪化している医療機関ではスタッフが委縮し必要以上の関わりを避けてしまう傾向にあり、肝心な患者さん対応が疎かになってしまいます。来院患者の満足度が向上しないと口コミ効果が発揮されず大切な増患に繋がりません。
業務能力を向上して欲しいとの思いから行った指導が逆効果となり、スタッフと距離を設けて淡々とした対応になってしまい、益々スタッフとの関係が悪化するという負のスパイラルに陥ってしまいます。
そんな院長のご参考になればと思い、私が関わった医療機関の事例をご紹介させて頂きます。
コンタクト部門、眼鏡部門も含めて30人を超すスタッフが在籍する郊外の眼科診療所です。院長は医療に対する思いが強く、職員へ高いレベルを求めるあまり厳しい指導をされていました。
その為、職員の在籍年数は3年弱と著しく短い勤務年数に、育てては辞めていくという状況に院長自身が長い間悩まされていました。
そこで提案させて頂いたのが「ランチミーティング」です。
ミーティングと言っても、ランチを摂りながら仕事の話しをするのではなく院長室で院長と3人の職員が定期的にランチを摂るだけです。
ランチの間は仕事の話しは一切せずに、普段は院長が主体となり勝ちですがスタッフの興味のある話題を中心にスタッフ自身が話をする場にします。
普段大人しいスタッフの意外な面の発見に繋がる事にもなります。
具体的にはスタッフの趣味を中心とした話しをします。旅行が趣味のスタッフの場合には最近に行った旅行の話しをします。
何時、どこに行ったかの情報は院長の奥様が職員情報をノートに纏めていらっしゃるので、院長には参加するスタッフの情報をランチ前にしっかりと覚えて置いて頂きます。
ランチミーティングを行う上で注意する点は3点あります。
(1) | ランチミーティングは業務ではないので、参加を強制しない。 業務と見做されると残業時間にカウントされてしまう事にもなります。 院長の驕りで美味しい物を食べようと誘い掛けています。 当初は参加しないスタッフも何人か居ましたが、今はカレンダーに参加者の名前を書いて楽しみにしているようです。 |
(2) | 参加人数は3名が適切のようです。院長と1対1は心理的な圧迫が生じますが、1対2でもまだ圧迫感は残るようです。1対3以上になると話が分散してしまい全員とのコミュニケーションが取りずらくなります。 |
(3) | 仕事の話しは絶対にしない。つい思い付いて「そうだ。あの件だけど」となり勝ちですが、ランチミーティングの趣旨から外れてしまいます。絶対に仕事の話にはならないという安心感が参加者には重要です。 |
この方法は心理学者グレゴリー・ラズランが唱えるランチョン・テクニックの応用です。
美味しい料理を共にすることで相手に対して好印象を与える効果が発生すると唱えられています。
ランチミーティングを始めてからはスタッフの在籍年数が5年を超えるようになり、最近では女性スタッフの管理職も誕生しました。
今迄は叱られる時にしか院長から声を掛けられる事がなかったのが、院長との心理的距離感が縮まったことで指導に対しても素直に話を聞くようになりました。
全ての医療機関に最適な方法ではないかも知れませんが、ご参考になれば幸いです。
ランチミーティング参加方法 | 強制参加とはしない |
参加人数 | 3人 |
話題 | 職員の趣味等 |
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会
株式会社MMS 代表取締役
専務理事 佐久間 賢一
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 顧問
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