★ 事例における法定相続人・相続分と遺言の必要性。
① 法定相続人
甲、乙、丙の子ども3名がXの法定相続人となります。
② 相続分
Xの法定相続人は子ども3名のみですので、甲、乙、丙の本来的な相続分は1/3ずつとなります。
③ 事例における遺言の必要性
Xが何もせずに死亡した場合には、当然、甲にも1/3の相続権が発生しますので、
Xの意向を反映させるためには、遺言を残す必要性があります。
★ 遺言と遺留分
① 遺言の意義
遺言とは、遺言者の死後の法律関係を定める目的で、一定の方式に従ってなされる相手方のない単独の意思表示であり、遺言者の死亡によって法律効果が発生するものであると法律的にはいいます。つまり、例えば、自分が死亡した後の自己の財産の帰属などについて、生前に意思を表明しておくものになり、上述した法定相続人以外の者に財産を与えたり(これを『遺贈』といいます(民法964条本文))、上述した法定相続分と異なる割合で相続人に財産を分け与えることもできます(民法902条1項本文)。
② 遺言によっても奪うことができない遺留分
(1)遺言と遺留分~遺言の限界~
①のとおり、遺言を使って、法定の相続分と異なる割合で相続人に財産を分け与えたり、法定相続人以外の者に財産を与えることもできますが、いずれも遺留分を侵害することはできないとされており(民法902条1項但書、同法964条但書)、これに反する遺言がなされた場合には、この遺留分を侵害された相続人は遺言で財産を取得した者に対して、遺留分の回復を請求することができることになります。
(2)遺留分とは?
遺留分とは、平たく言えば、一定の法定相続人(配偶者、子、直系尊属などの兄弟姉妹以外の法定相続人)に必ず確保される相続財産の一部をいい、遺言をもってしても、この遺留分は奪われることはありません(但し、相続放棄者、相続欠格者、相続排除者などの場合には遺留分が認められません)。
(3)遺留分の割合
A 直系尊属(親や祖父母)だけが法定相続人である場合
→相続財産の1/3
B A以外の場合
→相続財産の1/2
(4)事例における遺留分
上記(3)の遺留分を各法定相続人がその相続分に応じて権利を取得しますので、
相続財産の1/2の遺留分を甲乙丙で3等分(1/6ずつ)となります。
(5)事例における問題点
甲にはXの相続財産の1/6を遺留分として主張することができ、
その回復を乙や丙に求めることができます。
そこで、Xは、遺言作成にあたって、次のような付言を付けて工夫をすることにしました。
★ 事例における遺留分に対する対処~付言条項~
① 付言条項とは?
遺言には、法律関係の定めが記載されるのが通常ですが、法律関係の定めではないものの、遺言者の意思を伝える文言を加えておく場合があります。この中で、遺言の内容を決めた理由を相続人に伝え、事実上の紛争防止に努めることがあり、Xはこれを利用しました。
② 記載例
第●条(付言)
遺言者は、以上のほか、次のことを付言しておきたい。
遺言者が甲(昭和●年●月●日生)に財産を相続させないのは、遺言者の夫であるYの相続に際して、甲は法定相続分以上の十分な財産を得ていること、乙に相続させる敷地はYの父の代から長年にわたって診療所を営んできた場所であり、この診療所を継いだ乙に確実に取得させたいこと、Yが他界した後、甲が、事ある毎に、遺言者を邪険にし、「・・・」などの発言を繰り返し、遺言者は精神的に深く傷ついた事情があること、丙は遺言者の入院中、常に付き添い、退院後も丙宅で一緒に暮らし、その面倒を看てくれたなどの事情があるからである。先に述べたように、甲がYの遺産の大半を取得している経緯に鑑みても、遺言者の遺産については、いつも遺言者を気遣ってくれた乙、丙の2名にすべて渡したいと遺言者は強く願っている。甲には、遺言者の意思を十分に理解してもらい、遺留分を放棄して、紛争などを一切起こさないでほしい。
※本事例は実際の事例を参考にしておりますが、プライバシー保護のため内容を変更しています。